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全国でも珍しい石造りの旧芦屋市営宮塚町住宅

JR「芦屋」駅から南へ歩いて約10分。おしゃれな飲食店や住宅が立ち並ぶ一角に、石造りの外壁が目を引く「旧芦屋市営宮塚町住宅」があります。戦後の復興期、住宅不足を解消するために建てられた市営住宅には今、ものづくり作家の工房やカフェなどが入居。人々が出会い、交流する場として、新たなにぎわいが生まれています。

重厚感漂うクリーム色の直方体

街路樹の緑がまぶしい芦屋中央道を南下すると、左手に現れる直方体の建物。クリーム色を帯び、重厚かつ瀟洒(しょうしゃ)な雰囲気を醸し出しています。「外壁は、石材とコンクリートブロックを交互に積み重ねた石造り。使われているのは『日華石』と呼ばれる石川県産の凝灰岩です。軟らかくて加工しやすいから選ばれたのでしょう」と教えてくれたのは、芦屋市国際文化推進課学芸員の竹村忠洋さんです。近寄れば石の表面に引っかいたような模様が付けられており、一つ一つ表情が違うことが分かります。

建築されたのは1953(昭和28)年。終戦の年に4度の空襲を受け市街地の約4割が焼失した芦屋市は、戦後、深刻な住宅難に陥りました。それを解消するために、1952年に鉄筋コンクリート造り4階建ての「芦屋市営宮塚町住宅」1号棟を建設。その翌年、石造り2階建ての2号棟が竣工しました。昭和20年代の住宅不足解消に加え、建物の耐火性を追求するため、芦屋市が建てた最初の非木造の市営住宅でした。 「2号棟を石造りにした理由は、はっきりとは分かっていません。当時はコンクリートブロックの原料であるセメントが不足していたので、それを補う素材として実験的に試したと推測されます」と竹村さん。「結局はセメントが普及し、以降の市営住宅は全て鉄筋コンクリート造り。石造りの市営住宅は最初で最後でした」

植え込みや芝生の庭もあり、どこか自然の温かみが感じられます。
耐震性強化のため、石材間の目地やコンクリートブロック内に鉄筋を通しているそうです。「阪神・淡路大震災の時も壊れませんでした」

市民が活躍できる場所に

平成も後期に入ると、半世紀以上集合住宅として機能してきた「芦屋市営宮塚町住宅」にも老朽化の波が押し寄せていました。1戸の床面積が38.88㎡、6畳と4畳半の2室に台所と板間という間取りも、LDKが主流の現代の生活空間には合っていませんでした。老朽化したら建て替えるのが常ですが、芦屋市は、全国でも珍しい石造りの集合住宅である2号棟を文化財として保存活用する道を選択。2016(平成28)年、職員から成るプロジェクトチーム「創生ワーキンググループ」が出した「市民が活躍できる場所にしよう」という案を採用しました。

翌年、2号棟は住宅としての役目を終了。耐震改修工事やリノベーション工事を経て、2019(令和元)年、ものづくり作家の工房・ショップやカフェなどが入居する施設「旧宮塚町住宅」に生まれ変わり、翌年には国の登録有形文化財に登録されました。

全8室のうち、1階4号室に入居するのは、ガラス工房「火の果ぐらす」のオーナーでガラス作家の北川礼子さんです。アトリエ兼教室を自宅近くに持ちたいと考えていた時にテナント募集を知り、応募しました。「JR芦屋駅から徒歩圏内にありながら静かなので、日常を離れて制作に集中できます。昭和の雰囲気もあって落ち着きます」と話します。 カフェでゆっくりしたり、重厚感漂う建物をただ眺めたりと、「旧芦屋市営宮塚町住宅」は入居者以外も受け入れてくれます。60余年にわたり市井の人たちの暮らしが繰り広げられてきた石造りの建物は、再び輝きを放っています。

「火の果ぐらす」の内部。内装は入居者が自由に変えることができます。
営業時間や定休日はテナントによって異なります。詳しくは公式ホームページで確認してください。
旧宮塚町住宅(旧芦屋市営宮塚町住宅)
芦屋市宮塚町12-24
アクセス:JR「芦屋」駅から徒歩約10分
HP:https://www.oldmiyatsuka.org
マップ:https://maps.app.goo.gl/pXsrbKJh7mvLLKqE8

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