茶道の世界に触れて上質なひと時を
茶室で本格的なおもてなしを受けたり、茶事における茶懐石を古式にのっとっていただいたり。初心者でも気軽に茶道体験が楽しめるお店を紹介します。
本格的な手順で体験し茶室という空間を楽しむ
「新神戸」駅から徒歩約20分。神戸の街を一望する高台に「神戸茶寮 薫雲庵(ほううんあん)」はあります。隠れ家のようなたたずまいの昼夜各1組限定の懐石料理店では、本格的な茶道体験ができます。「お茶とお菓子だけではなく、本式の手順に沿って体験していただきます。作法を全く知らなくても大丈夫です」と話すのは、同店を運営する株式会社グルメワールド代表取締役の佐伯慈紀さん。亭主も佐伯さんが務めます。
茶道体験は庭のつくばいで手を清めることから始まります。「神社の手水舎で手を洗う作法と同じ。茶室に入る前に身を清めるのです」と佐伯さん。お手本を示してくれるので、それに倣います。
案内に従って茶室に入り、毛氈(もうせん)に座るとお菓子が運ばれてきます。お菓子をいただいた後は、亭主がお茶をたてる姿を見つめます。一切無駄のない所作は美しく、静かで豊かな時間が流れます。
通常の茶会ではこの後、亭主のお点前を頂戴しますが、「神戸茶寮 薫雲庵」では、体験者自らがお茶をたてます。茶杓(ちゃしゃく)や棗(なつめ)の扱い方、茶筅(ちゃせん)の動かし方などは丁寧に教えてくれるので、初めてでも安心です。「茶筅を素早く動かさないと、お茶がたちません。けっこう技術が必要なんですよ」と佐伯さんは話します。
お茶は茶碗の正面を避けて飲み、その後は畳に茶碗を置いて低い位置から観賞します。「正面を避けて飲むのは、亭主に対する謙遜の意を表します。茶道の作法には全て意味があります」
「茶室という特別な空間を楽しむ気持ちで参加してほしい」と佐伯さん。亭主との会話も茶道の楽しみの一つ。この機会に、分からないことはどんどん聞いて造詣を深めましょう。
神戸市中央区中尾町15-11
TEL:078-252-0055
営業時間:11:30~15:00、17:00~22:30
定休日:不定休
席数:テーブル最大30席
アクセス:JR・地下鉄「新神戸」駅から徒歩約20分
夜咄茶事の茶懐石を五感で味わう
「懐石」は、修行僧が空腹をしのぐために温めた石を懐に入れたことが語源。メインの茶の湯が沸くまでの間、「お腹を温める程度ですが」と客人に勧める簡素な食事とお酒を茶懐石といいます。
神戸市の諏訪山公園に程近い日本料理店「山荷葉」では、月に1回、茶事で振る舞われる茶懐石を提供しています。夕暮れ時から始まる夜咄(よばなし)茶事本来のやり方にのっとり、ろうそくの明かりのみで食事を取ります。「明るいと、人は目から入った情報で納得してしまって、想像力を働かせなくなります。でも、薄明かりの中で食事をすれば、香りをかぎ、口に入れて味わって初めて、食材を認識します。五感で味わうことで、素材そのものの風味を存分に楽しんでいただけるのです」と話す店主の板垣聡さんは、茶道家が開催する茶事の茶懐石を長年担当してきた料理人です。
スタートは膳に乗った「向付(むこうづけ)」「汁」「飯」のセット。併せて日本酒も提供されます。「日本料理のコースでは最後ですが、茶懐石ではまずご飯。その後、おかずが次々出て来る形です」と板垣さん。釜で炊いた「びちゃ飯」と呼ばれる炊きたて、軟らかめのご飯は、米の甘みがダイレクトに伝わります。釜から飯器に移したご飯はお代わりもできます。「時間がたつと、また違った味わいになりますよ」
その後は、「煮物」「焼物」、野菜の炊き合わせなどの「鉢」、酢の物の「預鉢(あずけばち)」、薄めの昆布だしといった「小吸物(こすいもの)」、酒の肴となる「八寸」、釜に残ったおこげ部分をふやかした「湯斗(ゆとう)」と続き、最後に「主菓子」が供されます。それぞれ、旬の山海の幸が丹念に調理されており、素材の持ち味が分かる優しい味つけ。器も店主こだわりの逸品ぞろいです。ろうそくの炎が揺れる中で食事を取るという非日常体験も趣があり、五感を呼び覚ます特別な時間を過ごすことができそうです。
神戸市中央区山本通5-13-9 再度ハイツB1F
TEL:078-341-0037
営業時間:12:00~14:30、18:00~21:00
定休日:火曜
席数:カウンター6席、テーブル16席
アクセス:地下鉄「県庁前」駅から徒歩約10分