ものづくり大学を経て家具職人に

もともとはサラリーマンだった幸玉さん。手仕事に憧れがあり、インテリアにも興味があったため、2000（平成12）年、開校したばかりの「神戸ものづくり職人大学」の洋家具コースに入学しました。同大学は神戸の地場産業の職人を育成するためにつくられたもので、ベテラン職人が講師となり、それぞれが持つ技術を学生たちに伝えます。「猫脚に代表される曲線美など神戸洋家具の特徴はもちろん、材料である木材の見方や手工具の使い方などを3年間、基礎からみっちりと教えてもらいました」と振り返ります。

例えば材料となる木にも個性があり、同じ種類の木でも色が濃い部分や淡い部分、模様がある部分やない部分、硬い部分や軟らかい部分があるそう。どの部分を使うと狂いが少ないか、また美しく仕上がるかを見極め、用途に合った材料を仕入れる“目”が必要です。さらに、曲線に切り出す方法やパーツの接合の仕方など、繊細なデザインに欠かせない技術を習得しました。

卒業後、家具職人としてスタート。当初は重厚でクラシカルな神戸洋家具を製作していましたが、そのうち「時代に合ったデザインのオリジナル家具を作りたい」と、2008年、31歳でオーダー家具を請け負う「MOU Trateknik&Design」を立ち上げました。「無垢材の表情を生かしたモダンなデザインを心がけています」

オーダー家具の製作はヒアリングから。顧客にアトリエまで足を運んでもらい、「どんな家具を求めているのか」「使う部屋の雰囲気は」等、時間をかけて聞き取ります。アトリエにはダイニングテーブルやチェアといった作品をレイアウト。部屋に置いたときの雰囲気をイメージしやすく、実際に座ることで座り心地やサイズ感を確認できます。「家具のデザイン案としてミニチュアの模型や、素材見本として多彩な表情の木材も用意しています。お客さまが作りたい家具を一緒に形にしていく感覚を大事にしたいですね」

神戸洋家具の技術を形にした小物も

オーダー家具と並行して注力しているのが観葉植物の鉢カバーのシリーズ「Soubi」です。コロナ禍前くらいから、「これぞ神戸洋家具というものを作ってみたい」と思うようになったものの、果たして時代に合っているのかどうか自問自答。結果、家具と同様に空間を彩る小物に行き着きました。「小物はいろいろな技術を反映できますし、鉢カバーであればインテリアの一部として空間に溶け込むのではないかと考えました」と幸玉さん。無垢材の個性を生かすこだわりはそのままに、家具の材料としては避ける節の部分も使い、SDGsにも貢献。2023年に販売を開始し、多面体のシャープなデザインや、底がなくかぶせるだけの使い勝手の良さが好評を得ています。

作品を納品する際は「嫁に出すみたいな感覚になって、一瞬手放すのが惜しくなる」と笑う幸玉さん。「最近、ものづくり大学の先生たちがあの時言っていたのはこういうことだったんだと実感します。ようやく教えを形にできるようになりました。これからもオーダー家具とSoubiの2本柱で、神戸洋家具の技術を生かした作品を作り続けたい。Soubiと飾る家具とをセットで納品できれば最高ですね」と、伝統の手技を受け継ぐ決意を新たにしています。