ヴォーリズ建築と近代の歴史に触れられる旧高碕家住宅主屋
100年以上前に開発された宝塚市雲雀丘の瀟洒(しょうしゃ)な住宅街に溶け込む「旧高碕家住宅主屋」。19世紀から20世紀初頭の米国で主流だった住宅様式が取り入れられた木造3階建ての洋風住宅は、近代建築の特徴を伝える貴重な文化遺産として、2019(令和元)年に国登録有形文化財に登録されました。
地域に唯一残るヴォーリズ建築
米国の建築家、ウィリアム・M・ヴォーリズは日本の西洋建築に大きな影響を与えたとされ、手がけた建物は全国に点在しています。かつては雲雀丘にも数軒あったものの、現存するのは「旧高碕家住宅主屋」のみ。医学博士の諏訪瑩一氏の住居として1923(大正12)年、切り妻屋根を途中から折り曲げた「腰折れ屋根」の米国の住宅に、日本の気候風土に合うよう和室など和の要素を盛り込んで建てられました。
1929 (昭和4)年には、現在建物を管理している公益財団法人東洋食品研究所の設立者、高碕達之助氏が住居用に購入。何度かの増築を経て竣工時とは異なる姿になっていましたが、1989 (平成元)年、老朽化した建物の保存を主な目的として原型の設計図を基に全面的な改修工事を実施、建築時の姿がよみがえりました。さらに、建物内の家具や置物、カーペットなどは実際に使用されていたものに加え、竣工当初の写真を参考に新たに購入し配置しています。2010年ごろから不定期で見学者を受け入れるようになり、現在は「高碕記念館」の名称で週6日公開しています。
住み心地を追求してつくられた空間
れんが敷きの外床に白を基調としたポーチが付いた玄関から入ると、重厚感のある板張りの廊下が続きます。右側には、8畳の和室を洋風に造り替え、布張りの椅子を設置した落ち着いた応接間。隣の20畳ほどの居間には建築当初からの暖炉が残り、壁一面を切り取った窓から一望できる西洋庭園には、緑の葉が茂ったヤシの木や数十年に一度花を咲かせる珍しいリュウゼツランなど、数多くの植物が植わっています。
2階へ続く階段は、改装時に踊り場が設けられました。「ヴォーリズ建築は踊り場がある階段が主流です。転げ落ちても途中で止まるようにという設計者の優しさが表れている部分なので、そちらに変更されたようです」と同社事業推進部の三木美代さんは話します。
同館の特徴をより感じられるのが、2階のさらに上にある「屋根部屋」と呼ばれるフロア。腰折れ屋根の形状を生かした実用性の高い空間で、来客用寝室とお手伝いさん用の部屋、物置部屋があります。特にお手伝いさん用の部屋は、畳敷きの和室の壁に縦長のアーチ窓が3つ並び、和洋が調和したかつての姿が色濃く残ります。
建てられてから1世紀を超える歴史あるヴォーリズ建築は、当時の面影を残しつつ閑静なお屋敷街の一角に静かにたたずんでいます。
宝塚市雲雀丘1-7-58
TEL:072-740-6600
開館時間:10:00~16:00
休館日:月曜(祝休日の場合は翌平日)
入館料:無料
※館内の見学は要予約。1人から申し込み可能。
アクセス:阪急「雲雀丘花屋敷」駅から徒歩約10分
HP:https://takasaki-ts.com/
マップ:https://maps.app.goo.gl/mWU2EVRNzQxqgVNA9