昭和初期のモダンな旧尼崎市立高等女学校
阪神「尼崎」駅の南東、江戸時代には尼崎城本丸があった場所にたたずむ「旧尼崎市立高等女学校」。時代とともに高校や中学校へと役割を変え、現在は尼崎市立歴史博物館、尼崎市立成良中学校琴城分校として活用されている昭和初期の建物を訪ねました。
女子のための学び舎を意識した建物
尼崎市立高等女学校は、1913(大正2)年に設立された尼崎町立実科高等学校を前身とする尼崎初の高等女学校です。当初は木造校舎でしたが、1931(昭和6)年、3階建て鉄筋コンクリート造りへの建て替え工事が始まり、1933年に東側約3分の1が完成。しかし翌年の室戸台風の被害により残りの工事は遅れ、5年後にようやく竣工します。
当時、尼崎市には建築技師がおり、独自で設計から手がけました。「詳しい資料が残っていないので詳細は分かりませんが、女子だけの学校ということを意識して造られたようです」と尼崎市立歴史博物館学芸員の桃谷和則さんは話します。例えば、校舎は中庭を囲むように口の字型に建てられ、どことなくヨーロッパの修道院を思わせる造りになっています。「外部からの目を気にせず安心して過ごせるよう配慮されたのではないかといわれています」
正面玄関は、高級ホテルのエントランスのような華やかなデザイン。ガラスの天窓を設けた重厚感のあるひさしをリング状の照明が付いた2本の太い円柱が支え、円柱脇には緩やかな曲線を描く車寄せ風のあしらいが施されています。扉の両脇には八角形の飾り窓もあり、「女子の多くが小学校までしか進学できなかった時代、良家の子女が通う学校として、装飾にもこだわったのではないでしょうか」と桃谷さんは推測します。
細部にもこだわりが光るデザイン
その後、尼崎市立尼崎高校、城内中学校を経て、現在の建物は1階が成良中学校琴城分校の教室と歴史博物館の事務室や埋蔵文化財の整理室など、2階が歴史博物館の常設展示室で原始・古代から現代まで6室に分かれています。さらに3階には、季節ごとにテーマを変えて特別展や企画展が開かれる企画展示室、尼崎の歴史に関する資料が閲覧できる地域研究史料室などがあります。2020(令和2)年に歴史博物館に改修する際の工事で内装はほとんど造り替えられましたが、2階に1室だけ残された教室からは城内中学校時代の面影がうかがえます。
また、塗装などが一新された廊下では、緩やかなアーチを描いた天井の梁(はり)が、女学校時代の名残をとどめています。「よく見ると、建て替え当初にできていた東側の校舎は、天井の梁が曲線ではなく角張っています。中断した5年の間にデザインの流行が変わったのかもしれません」と桃谷さんは話します。
昨年11月には、国の有形文化財に登録された貴重な学び舎。随所に優美な意匠が散りばめられた校舎からは、女子学生たちの明るい笑い声が聞こえてきそうです。
尼崎市南城内10-2
TEL:06-6489-9081
開館時間:9:00~17:00(入館は16:30まで)
休館日:月曜(祝休日の場合は翌平日)
入館料:無料
アクセス:阪神「尼崎」駅から徒歩約10分
マップ:https://maps.app.goo.gl/Ux1W6mE1JnPAuegK6