外装・内装とも個性あふれるオリジナル車両

武庫川線が開業したのは太平洋戦争中の1943（昭和18）年。現在の「武庫川団地前」駅の辺りに「洲先」駅があり、すぐそばの軍需工場に従業員や資材を運ぶ役割を担っていたといいます。戦後は営業休止期間を経て1948年に再開。その後、武庫川団地の開発に伴い1984年に「武庫川団地前」駅を設け、延伸しました。阪神電気鉄道株式会社経営企画室の飯塚研一さんによると、データが存在する1984年以降で見ると、ピーク時の2011年には1日に1万2,000人超の利用者がいたそうです。

2020年、「赤胴車」と呼ばれていた7861形、7890形の引退に伴い、新車両を導入。阪神タイガースの本拠地である阪神甲子園球場、二軍の本拠地兼練習場の阪神鳴尾浜球場が近くにあることから、阪神タイガースにちなんだデザインが取り入れられました。新車両は全4種。阪神甲子園球場をイメージした「甲子園号」は、球場を覆うツタを思わせる落ち着いた緑色のボディー。車内の壁面は球場外壁のれんが風に、床面にはピッチングマウンドやバッターボックスがあしらわれ、球場さながらの雰囲気を味わえます。「タイガース号」は、チームカラーの黄色と黒が基調。車内の壁面は縦じま模様で、タイガースのロゴもあちらこちらに散りばめられています。白をベースに子どもが喜びそうなピンク、黄色、水色とカラフルで愛らしいカラーリングの「トラッキー号」は、車内にトラッキーの足跡などが描かれ、遊び心たっぷり。黄色と緑のツートンカラーの「ＴＯＲＡＣＯ号」も、窓ガラスにはトラ耳が描かれ、頭を合わせるとフォトスポットになるといった仕掛けが施されています。

車両は日替わりで通常は1本、朝夕のラッシュ時のみ2本が運行。今日はどれに出合えるかとわくわくできるのも醍醐味（だいごみ）の一つです。「個性あふれる2両編成の車両が、単線をワンマン運転でゆっくり走るのどかな路線です。都会にいることを忘れさせてくれますよ」と飯塚さんは話します。

旧車両などと出合える「阪神電車メモリアルルート」

終点の「武庫川団地前」駅の近くには、一代前の車両に出合えるスポットも。ＵＲ都市機構が開発した武庫川団地内にある広場には、2020（令和2）年に引退した赤胴車の7890形車両が運び込まれ、展示されています。車内にはテーブルが置かれ、地域のコミュニティースペースとして活用されているそう。広場までのルートは「阪神電車メモリアルルート」として整備されており、「青胴車」の愛称で親しまれた5001形の車輪や踏み切りの一部が設置され、鉄道ファンの心をくすぐります。

さらに、団地の横に立つ商業施設「メルカードむこがわ」の2階の通路には、使われなくなった自動改札機が。同施設マネジャーの田中尚美さんは「自転車に乗った人に、自転車から降りて通行してもらえるよう、阪神電鉄さんから譲り受けた自動改札機を並べています。鉄道好きの方がよく見に来られますよ」と話します。

小腹が空いたら同施設の1階にある「ごろちゃん餃子」でひと休み。看板メニューの「餃子」（6個350円）は、豚と鶏の合いびき肉、おろした長芋、砕いたアーモンドに昆布と魚粉のだしを加え、もっちりとした皮で包んでいます。「素材本来のおいしさが感じられるよう、ニンニクも控えめにしてあっさり仕上げています」と店主の山本悟朗さん。合わせるのは、定番のビールもいいですが、同店のオリジナルドリンク「薬膳クラフトコーラ」（480円）もおすすめ。ナツメグ、クローブ、シナモンなど11種のスパイスをじっくり煮出してんさい糖で甘みを付けて炭酸で割った一杯は、夏の疲れをじんわりと癒やしてくれます。