Official SNS instagram facebook twitter
このサイトについて

伝統を守りながら一人一人に寄り添った美味を届ける

神戸市西区櫨谷町。櫨谷川がまちの中心を流れ、田園風景が広がる自然豊かな地域に、池本醤油合名会社はあります。1885(明治18)年の創業以来、神戸唯一の醤油蔵として日本の食卓に欠かせない調味料を造り続けています。創業時は川沿いにあった蔵を現在の地に移したのが1918(大正7)年。阪神・淡路大震災も乗り越えたという築100年を超える木造蔵は、同社が歩んできた歴史を物語ります。

醤油だけでなくポン酢やソースも

「櫨谷町は、醤油造りに欠かせないおいしい水がある地として先祖が選んだ場所です」と話すのは6代目代表社員の池本充宏さんです。六甲山系の伏流水が豊富なこの地で、同社は醤油を造り続けてきました。

蔵内にある直売所には、醤油だけでなく、ポン酢やソースなどさまざまな商品が並んでいます。その数なんと23種。創業来の「菊むらさき」ブランドを冠した伝統の「かけしょうゆ」「上撰濃口醤油」「上撰淡口醤油」をはじめ、原材料を兵庫県産の大豆と小麦にこだわり、木おけで1年半熟成させた「櫨」シリーズ、醤油をベースにだしや砂糖などを絶妙なバランスで調合した「あまから名人」「楽だし」など、バラエティーに富んでいます。「アイスクリームにかけるしょうゆ」といった、かなりマニアックな層を狙った商品も。「小さい蔵ならではの小回りの良さが自慢です」と池本さんは笑います。

2023年4月に販売を開始した「しらずしらすにかけちゃうおしょうゆ」は、神戸市からの呼びかけで阪神間の大学・専門学校生とコラボしたもの。醤油の開発は同社が担当し、商品名とラベルは学生たちが考案しました。

「神戸の代表的な海産物、しらすに合うたれを、というオーダーでした。通常はショウガや砂糖を混ぜて濃い味付けにするところを、あえてしらすそのものの味を感じてもらえるようにしました」と池本さん。酢を少量入れることでほのかな酸味がプラスされ、後味すっきりの商品に仕上がっています。

全ての自社商品がそろう直売所。ホームページのオンラインショップからも購入できます。

OEMでは多様で細かいニーズに対応

同社では、自社商品のほかOEM商品の開発・製造にも携わっています。「時代とともにお客さまのニーズも多様化しています。そのニッチなところに対応していかないと中小企業は生き残れません」と池本さん。例えば、うどん店からの「米粉を使ったうどんに合うだし」や、飲食店からの「揖保乃糸のにゅうめんに合うあごだし」など、大手では受け止めきれない需要に柔軟に対応。顧客との打ち合わせと試作を重ね、求められている味を追求します。

中には「ラベルのデザインだけをハードロック風に変えたい」「外国人向けのパッケージ、ネーミングにしたい」といった依頼も。社内で完結できない要望は協力会社の力も借りながら進めています。

「小さい蔵だからこそできることを大切に、お客さまの要望には可能な限り応えていきたいと思っています。醤油に関することなら何でもOK、くらいの気持ちです。皆さんの夢の実現のお手伝いができたらうれしいですね」

ラベル付けの製造ラインでは、自社商品「あまから名人」(奥)とステーキ店のOEM商品が一緒に作業されていました。
左から、東京のお好み焼き店のポン酢と神戸の小料理店のギョーザのたれ。

もろみ造りを50年ぶりに復活

池本さんは2023年4月、長年思い描いていた自社でのもろみ造りを始めました。もろみとは、大豆と小麦、種こうじを混ぜ合わせ、発酵させて軟らかくしたもので、これを搾った液体が生揚げ醤油。もろみの出来で醤油の風味が決まるといわれ、蔵にとっては命ともいえる大切なものです。

しかし、もろみの発酵と熟成には繊細な作業が必要で、お金も労力もかかります。同社ではコスト削減のため、約50年前にもろみの製造を中止。生揚げ醤油を協力会社から購入し、以降の火入れや調味などの工程のみ自社で行っていました。

「事業を続けるための苦渋の決断だったのでしょう。でも、醤油蔵を名乗る以上はもろみも自分たちで造りたい、ずっとそう思っていました」と池本さん。昨年、国のものづくり補助金の審査に通ったことを契機に、もろみ造りに必要な発酵機と搾り機を購入。念願だった「一からのしょうゆ造り」を復活させたのです。

原料は近隣の農園で栽培された大豆、小麦と、六甲山からの伏流水。発酵機にかけた大豆と小麦、こうじをおけに移して塩水を加え、1年ほどかけてさらに発酵、熟成させていきます。「同じ原材料、同じ環境、同じ熟成期間なのに、おけごとに香りが違います。蔵にすみついている菌が作用しているのかもしれません。醤油造りの醍醐(だいご)味ですね」。2024年の春には初めての作品が出来上がります。

今後は、「このおけはこの人のしょうゆ」という形で、好みの原料を使って、好みに調味したオーダーメード醤油の製造も考えているとか。「地元の皆さんに親しまれている昔ながらの味は大事にしながら、お客さま一人一人に寄り添った多様な商品造りをこれからも続けたい」と池本さん。130余年の伝統を守りつつ時代の変化にも柔軟に対応し、さまざまな人の食卓を支える、それぞれの美味を届けていきます。

発酵機にかけた大豆と小麦、こうじをおけに移します。湯気のように漂うのは、こうじ菌です。
表面にこうじ菌が着いて緑色になった大豆と小麦に塩水を加え、仕込みは終了。
発酵・熟成が進むと次第に茶色に。
さらに発酵・熟成が進み、ほぼもろみが出来上がっている状態。
「息子に引き継ぐまでに、会社にもっと勢いをつけたい」。6代目の挑戦はこれからも続きます。
池本醤油合名会社
神戸市西区櫨谷町福谷691
TEL:078-991-0001
営業時間:8:30 ~17:30
定休日:日曜、祝休日、第2土曜
アクセス:神姫バス「福谷」下車徒歩すぐ
HP:https://www.kikumurasaki.co.jp/
マップ:https://maps.app.goo.gl/etVKcKF8CRLqQFyB6
Recent Articles