ユニークな神社で初詣
新たな年の平安を願う初詣。近所の氏神さまもいいけれど、卯年はいつもと違う神社に出かけませんか。お参りしたくなるようなストーリーを持つ、個性豊かな神社を紹介します。
県内最後に震災から復興した神社
1995(平成7)年1月17日に起きた大地震は、西宮市の大市八幡神社にも大きな爪痕を残しました。平安初期の創建とされ、地域の人たちに「大市の八幡さん」と親しまれている同神社。県指定重要文化財の本殿は奇跡的に倒壊を免れたものの、幣殿・拝殿をはじめ末社や鳥居などが全壊。直後から再建に取りかかりましたが、多額の費用を要する幣殿・拝殿は長い間手つかずでした。先代宮司の梅林展久さんは事業費を集めるため、2018年1月から「千円十万口運動」を展開。篤志家の大口寄付もあり、22(令和4)年4月、ついに悲願だった幣殿・拝殿が竣工しました。すでに震災から四半世紀余りの時がたち、兵庫県神社庁によると、震災から復興した主要な神社施設では県内最後とのこと。先代である父の思いを引き継いだ現宮司の寿嗣さんは、「ゴールではなく新たなスタート。今後も地域の皆さんのために頑張っていきたい」と話します。
境内にはナスの形をした絵馬がかけられた一角も。オリジナルの「なすの願いかけ絵馬」は、かつて地域で栽培されていた伝統野菜「大市なす」がモチーフです。「幣殿・拝殿の竣工を記念し、『このまちとともに』という当社の願いを込めて制作しました」と寿嗣さん。八幡神の使いとされる鳩もあしらわれており、鳩は切り離して持ち帰ることができます。大市なすは、近年、復活栽培の取り組みも進んでいるとか。新年の復活や躍進を託すにはぴったりの絵馬といえそうです。
西宮市若山町3-31
TEL:0798-64-0670
アクセス:阪急「門戸厄神」駅から徒歩約10分
ビリケンさんは神戸にもいた!
両足を前に投げ出して座る姿が愛くるしい神様、ビリケンさん。米国の女性彫刻家が夢で見た神様をモデルに創作したなど諸説あり、幸運のマスコットとして世界中に広まりました。日本では1909(明治42)年、東京の文明堂の店頭に初登場。現在は大阪の通天閣のシンボルとして人気を集めています。このビリケンさん、実は神戸にもいるのをご存じですか。
祭っているのは松尾稲荷神社と西出町鎮守稲荷神社。いずれも兵庫区にあり、300mほどしか離れていません。松尾稲荷神社のビリケンさんは大黒天を連想させる和風な顔だちで、高さは約1m。右手に打ち出の小づち、左手に瑞玉を持ち、背中には大判を背負っています。大正時代の終わり頃に神戸・元町の洋食店の店主から奉納されたもので、米国の水兵が持ち込んだビリケンさんを参考に制作した和製ビリケンです。「公共の場に安置されている和製ビリケンでは日本最古のものです。当社に祭られた当初は朱色だったのですが、100年ほどがたち黒いお姿になりました」と宮司の長山竹之さん。良くなってほしい所をなでる参拝客が多く、一番すり減っているのは頭の部分だそうです。
神戸市兵庫区東出町3-21-3
TEL:078-671-6444
アクセス:JR「神戸」駅から徒歩約10分
西出町鎮守稲荷神社の方はオーソドックスな形をしており、本殿の脇に祭られています。2005(平成17)年に敷地内で見つかったもので、いつから、なぜ神社に保管されているのかは今も分かっていません。胴体の中から見つかった小石には、墨で「永政天大 昭和五年十月五日」と書かれており、この頃に作られたと推測できます。また、同じ石には「ピリケン菩薩」ともあることから、こちらはピリケンさんと呼ばれています。くしくもご近所同士の神戸のビリケンさん。その愛きょうのあるお姿をぜひ訪ねてみてください。
神戸市兵庫区西出町13
TEL:078-681-2112(七宮神社)
アクセス:JR「神戸」駅から徒歩約10分
名称に「綱敷」が付く神社とは
神社本庁によると、名称(法人名)に「綱敷」とある神社は全国に9つ。京都から九州の太宰府までの間に点在し、その共通項は、菅原道真が大宰府に左遷される途中で立ち寄ったという伝承を持つこと。配流の身の道真公を案じ、綱を渦巻き状にして敷物を作り迎えたことから、その名が付いたとされています。
「綱敷」が付く9社のうち、2社は神戸にあります。まずは「須磨の天神さま」として親しまれている綱敷天満宮。100年に一度の大規模修復を終えたばかりの本殿の脇には、道真公が休んだとされる敷物を模した「綱敷の円座」や願いがかなう「なすの腰かけ」。その他にも、時勢の波に乗ることを祈願する「波乗り祈願像」や職員手作りの「茅の輪」など数々の縁起物があります。また、「厄災をうそにし、幸運を招く鳥」とされるウソの置物や、出掛ける前や帰宅後に玄関で鳴らすと邪気が払われるという土鈴も。「職員が一つ一つ絵付けしているので、同じものは二つとありません。さまざまな絵柄のウソや土鈴に癒やされてほしいですね」と宮司の久野木啓太さんは話します。
神戸市須磨区天神町2-1-11
TEL:078-734-0640
アクセス:JR「須磨」駅または山陽「山陽須磨」駅から徒歩約10分
東灘区にある綱敷天満神社の「綱敷」の由来は少し変わっています。道真公はこの地を治めていた山背王(やましろのきみ)と親交があり、彼に別れを告げるため太宰府に向かう途中で立ち寄り、綱の円座で迎えられました。長い時を経て、江戸時代に道真公の子孫、菅原義輝がこの地を訪れた際、道真公のゆかりが深い地として社殿を建立し、社名を綱敷天満宮と定めたとか。「綱敷の名が付いた時から道真公が祭神に加わりました。名称を天満宮から天満神社に改めたのは明治時代です」と、宮司の江藤和夫さんが教えてくれました。毎年1月8日、9日に行われる「綱打祭」は全国的にも珍しい特殊な神事。注連柱(しめばしら)に氏子が作った大綱を巻くように張り渡し、多くの榊葉をつるし、さらに御幣と麻の緒を付けます。この注連柱をくぐると1年間無病息災で暮らせるとされており、毎年多くの参拝客でにぎわいます。神事当日でなくてもおはらい効果はあるそうなので、別の日にゆっくり訪れるのもいいですね。※12月26日~1月7日は綱が外されています
神戸市東灘区御影1-22-25
TEL:078-841-1150
アクセス:阪神「石屋川」駅から徒歩約10分
お稽古事の上達にご利益!?
スポーツやバレエ、ダンスなど、お稽古事をしている人は、初詣の折にその上達を願うこともあるでしょう。東灘区の街中とは思えないほど豊かな緑に包まれた弓弦羽神社は、今から約1200年前に創建されました。祭神、熊野大神の使いである八咫烏(やたがらす)は、日本サッカー協会のシンボルマークとして知られています。もう一つ、サッカーとの縁を宮司の澤田政泰さんが教えてくれました。「日本初のサッカーチームは、かつて神社の近くにあった御影師範学校で結成されました。大正時代に始まった日本フットボール優勝大会で同校は11回も優勝。御影の地は日本サッカーの発祥の地と言っても過言ではありません」。サッカーのスキルアップや試合での勝利を祈願する人が多いのもうなずけます。境内の御影石のサッカーボールにも矢に乗った八咫烏。ゴールに向かい一直線、勝利へと導くかのようです。
神戸市東灘区御影郡家2-9-27
TEL:078-851-2800
アクセス:阪急「御影」駅から徒歩約5分
甲子園素盞嗚(すさのお)神社は約400年前、祭神の素盞嗚尊(すさのおのみこと)の武勇にあやかり、武庫川の治水を願って造られたと伝わります。100年前に阪神甲子園球場がすぐ隣に立つと、甲子園出場や優勝を祈願する人が全国から訪れるようになりました。熱い思いが込められた絵馬の前には、ホームベース型の敷石と岡田彰布さんの揮毫による「野球塚」。「敷石をホームベース型にしたのは、ここが出発点であり帰着点であるという思いから。大きな選手となって戻ってきてほしいですね」と、宮司の畑中秀敏さんは笑顔を見せます。手水舎の脇には星野仙一さんの揮毫によるボール型モニュメントも。球場の脇の小さな神社は大きな野球愛であふれています。
西宮市甲子園町2-40
TEL:0798-41-4556
アクセス:阪神「甲子園」駅から徒歩約5分
宝塚大劇場がある川面地区の氏神さま、川面神社は「出世神社」とも呼ばれています。なぜ、こう呼ばれるようになったか定かではありません。以前はすぐ近くに宝塚音楽学校があり、受験生は合格を祈り、音楽学校の生徒はスターになることを願いました。「生徒さんがスターになれる神社ということで、出世神社として親しまれるようになったのかもしれませんね」と宮司の埜村和彌さん。音楽学校が移転した今も、タカラジェンヌを夢見る人や宝塚歌劇ファンの参拝は多いそうです。お参りの後は観劇というコースもおすすめ。きらびやかな舞台では、夢をかなえたスターたちが最高のパフォーマンスを見せてくれることでしょう。
宝塚市宮の町11-7
TEL:0797-87-4692
アクセス:阪急「清荒神」駅から徒歩約5分