こだわりが光る蒸留所
繊細な味わいで、特に海外から高く評価されている“ジャパニーズウイスキー”。大手メーカーのほか、地酒蔵や新興蒸留所のウイスキーも人気を集めています。神戸近郊の蒸留所を紹介します。
多様な樽の原酒を合わせて一期一会の味を(江井ヶ嶋蒸留所)
明石市の臨海部に位置する江井島地区で300年以上日本酒を造り続けている江井ヶ嶋酒造株式会社は、1961(昭和36)年にウイスキー造りを開始。日本酒造りの閑散期である3月から10月にかけて作業を行っています。敷地内に立つ「江井ヶ嶋蒸留所」は1984年に竣工。同時に2代目のポットスチル(単式蒸留器)を導入しました。
製造工程はまず、粉砕した麦芽に水を加えて糖化、ろ過し、麦汁を作るところから始まります。「麦汁を発酵させる際、ウイスキー造りでは一般的ではない酒母仕込みを行ったり、すっぱい発酵液にするためにステンレス槽ではなく木おけで乳酸発酵を促したりと、日本酒の技をウイスキーにも生かしています」と話すのは、2021(令和3)年からブレンダーを務める大川啓太さんです。
次に、出来上がった発酵液をポットスチルに入れて2度蒸留(初留・再留)。蒸留を終えたニューポットと呼ばれる生まれたてのウイスキーは、樽(たる)に入れてじっくり寝かします。樽は、バーボンをはじめシェリーや赤・白ワイン、日本酒など各種アルコールを熟成させるために使われていたもので、約35種にもわたります。さらにクリやミズナラの木で作った新しい樽など、いろいろな樽を試している最中だそうです。「樽の材質や年数などによって原酒の味は変わります。異なる樽で熟成した原酒を混ぜると、また違う味になる。その可能性は無限大です」と大川さんは話します。
2022年、8年間熟成させたオールドシェリー樽や3年熟成の若い樽、日本酒樽など6つの樽の原酒をブレンドした「シングルモルト 江井ヶ嶋 SEXTET(六重奏)」をリリース。翌23年には異なる4つの樽をブレンドした「QUARTET(四重奏)」、24年には5つの樽をブレンドした「QUINTET(五重奏)」と、毎年その年だけのウイスキーを世に送り出しています。「日本酒の酒蔵としての特徴は生かしながら、これからも樽を組み合わせて無限の味わいを造り出していきたい」と大川さん。気鋭のブレンダーがこれからどのようなハーモニーを奏でるのか、乞うご期待です。



明石市大久保町西島919
TEL:078-946-1001(江井ヶ嶋酒造)
アクセス:山陽「西江井ヶ島」駅から徒歩約10分
HP:https://www.ei-sake.jp
マップ:https://maps.app.goo.gl/ziTJMwTWmvWKYPUC6
本場の技と独自の感覚を融合し無二の味を追求(海峡蒸溜所)
その名の通り、明石海峡大橋のたもとにある「海峡蒸溜所」は、2017(平成29)年、清酒「明石鯛」の蔵元である明石酒類醸造株式会社の蒸溜酒部門として誕生しました。「日本酒の輸出が縁で、スコットランドの蒸溜所を運営している会社と資本提携を結ぶことになり、『日本でもウイスキーを造ってみないか』と勧められたのです」と話すのは、同社の代表取締役で同蒸溜所のブレンダーでもある米澤仁雄さんです。
ウイスキー造りに携わる社員を新たに雇い入れ、一緒にスコットランドの姉妹蒸溜所で研修。本場の手法を一から教わった後、まずはブレンドや熟成の技術を勉強するため海外の原酒を使った商品を開発しました。明石港に残る旧灯台から命名した「波門崎」ブランドで、3種を主に海外で販売しています。2022(令和4)年4月には全て自社で完結するシングルモルトの製造に乗り出し、仕込みを開始。現在は熟成中で、最初のリリースは2027年ごろになる予定です。
今でも年に一度はスタッフを連れて姉妹蒸溜所に勉強に行くとのこと。「スコットランドと日本では、ウイスキー造りに対する価値観が違います。本場の伝統の技に敬意を払いながらも、自分たちのやり方を見つけていかなければいけません」と米澤さん。「飲む人においしいと思ってもらえる華やいだ香りのウイスキーを造りたい。それだけです」と言い切ります。スコットランドの技術とジャパニーズウイスキーの技術を掛け合わせながら、独自の味を目指します。



明石市大蔵八幡町1-3
TEL:078-919-1087
営業時間:11:00~17:30
定休日:火曜、第2・4水曜
アクセス:山陽「大蔵谷」駅から徒歩約5分
HP:https://www.akashi-tai.com
マップ:https://maps.app.goo.gl/QjEFPAPBbY3F2yfGA
30年前の蒸留釜を活用して神戸の新たな名産品を創造(神戸蒸溜所)
神戸市北区の道の駅「神戸フルーツ・フラワーパーク大沢」にある「神戸蒸溜所」。建物はもともと、神戸ワイナリーを運営する神戸市の外郭団体が神戸産ブドウを使ってブランデーを造っていた場所で、フランス製の直火蒸留釜「アランビック・シャラント」が鎮座しています。しかし蒸留開始からわずか2年後、阪神・淡路大震災が発生。ブランデーの製造は止まり、蒸留釜も使われないまま30年近くの年月がたちました。そんな中、神戸ワイナリーのワインやブランデーを海外販売していた酒類商社、株式会社グロースターズが施設を活用してウイスキーの製造をすることに。「弊社の代表がシャラント型の蒸留釜に一目ぼれし、ぜひ復活させてウイスキー造りをしたいと神戸市に掛け合ったそうです」と、同社広報の亀谷成美さんは話します。
まずは基本に忠実にと、2022(令和4)年の開所時に導入したウイスキー用のポットスチル2基で蒸留。そして2024年秋、満を持してシャラント型直火蒸留釜での作業を始めました。初留は新設したポットスチルで、再留についてはシャラント型で行っています。「ニューポットを比べると香りが全然違います。再留の釜を変えただけなのにと、スタッフ一同驚いています」
シャラント型でのウイスキー造りには、クラウドファンディングで資金を募りました。「開始2日後に目標額を達成し、皆さんの期待を感じました。同時に、いいウイスキーにしなければという使命感が湧いてきました」と亀谷さん。
今後は、環境省の「名水百選」に選ばれた布引の水や、地元農家と協力して試験生産した麦芽を使った商品の開発も検討しています。“神戸ウイスキー”を生み出す挑戦は、まだ始まったばかりです。



神戸市北区大沢町上大沢2150
TEL:078-855-7631(株式会社グロースターズ)
HP:https://www.kobe-distillery.com/
マップ:https://maps.app.goo.gl/je6Y8Jwt5F9GPcNy9