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目でも楽しめる銭湯

古くからある銭湯には、ユニークな形の浴槽やレトロなモザイクタイル画といった珍しいものがたくさん残っています。お湯に癒やされ目でも楽しめる下町のお風呂屋さんを紹介します。

古き良き神戸に出合えるお風呂(扇港湯)

引き戸を開けて浴室に入ると、神戸ポートタワーと神戸の夜景が描かれたモザイクタイル画が視界に飛び込んできます。神戸・長田の下町で1932(昭和7)年から営業を続ける「扇港湯」が誇るオリジナルです。タワーの完成から2年後の1965年、浴室を改装する際に誕生しました。

そもそも屋号の「扇港」とは、海から見た神戸港のこと。「施工をお願いした業者さんに、海上から神戸の写真を撮ってもらい、それをモザイクタイルで表現していただきました」と話すのは、先代の妻、綿貫茂子さん。代替わりした今も息子夫婦と共に切り盛りしています。

約1㎝四方の小さなタイルを敷き詰めて作り上げたモザイクタイル画は、年月を経て風格が加わり、もはや立派なアート作品と言っても過言ではありません。「今の時代、タイル職人さんはほとんどいないので、大切にしていかないと」と綿貫さんは話します。

もう一つ浴室で目を引くのが、細長くて大人の膝丈にも満たない浅い浴槽“くみ出し専用槽”です。戦後、人口が急増して洗い場が常に順番待ち状態になった時に少しでも待ち時間を減らして混雑を解消しようと設けられたもので、周囲で体を洗うことができます。昔は神戸ではよくあったものの、今でも残っているのは珍しいのだとか。

「昔よく通ってくれた子が、大人になって自分の子どもを連れて来て『懐かしいわ』と喜んでくれたこともあります。皆さんの思い出の場所なので、これからも大事に守っていきたいですね」と綿貫さん。時代とともに町の様相も変わりつつありますが、ここに来れば、いつでも昭和の時代に出合えます。

「デザイン上、ポートタワーは女湯からしか見えなくて。男性の方には申し訳ないです」と話す綿貫さん。
たまに小さな子どもが入ろうとするというくみ出し専用槽。奥の洗い場はタイルに金魚や植物の意匠が施されています。
のれんは季節に合わせて付け替えているそう。玄関の左右には昔は小さな前栽(庭)があったそうです。
暗くなると赤と青のネオンサインが灯り、一層レトロな雰囲気に。
扇港湯
神戸市長田区駒ヶ林町2-20-12
TEL:078-611-0512
営業時間:13:00~翌0:30
定休日:月曜
アクセス:地下鉄「駒ヶ林」駅から徒歩約5分
入浴料:大人(中学生以上)450円、中人(小学生)160円、小人(未就学児)60円
マップ:https://maps.app.goo.gl/URMMQG6QeKTgNN9e8

歴史の重みが感じられる1世紀越えの湯(第一敷島湯)

尼崎・杭瀬の住宅街の一角。細い路地には、近代的な民家に交じって一軒、緩やかに波打った唐破風の屋根を備えた平屋の建物が立っています。1923(大正12)年に創業した「第一敷島湯」です。主人の黒木達也さんが30年前に先代から店を引き継ぎ、現在は主に夫婦二人で切り盛りしています。「20代の頃は唐破風の屋根なんて古くさくて嫌だなと思っていましたが、関西ではほとんど残っていないようなので、取り替えずにいて良かったです」と笑う黒木さん。50年ほど前、老朽化のため浴室と脱衣所を改装しましたが、以降はほぼ姿を変えることなく現在に至ります。

浴室の中央には、よそではあまり見かけない円形の浴槽が。内側にも外側にも段があり、腰かけることができるようになっています。洗い場には、広告付きの鏡がずらり。昔は鏡広告を扱う専門業者がいくつもありましたが、付き合いのあったところが廃業になり、今は黒木さん自らSNSを使って広告主を募集しているそうです。

壁面のモザイクタイル画は風光明媚な滝と松の風景画で、丸い浴槽を滝壺に見立て、このデザインが選ばれたといいます。脱衣所に戻ると、その壁にも富士山のモザイクタイル画が施されています。「脱衣所にまでモザイクタイル画があるところは珍しいかと思います」

女湯の脱衣所で気になるのが、椅子にお釜を逆さにしたようなものが付いた「お釜型ドライヤー」です。お釜の中に頭を入れると手を使わずスマホを触りながらでも髪を乾かせるので、若い人から「自宅にも欲しい」という声もあるのだとか。「シンプルなお風呂で特別なものは何もありませんが、たまに落語会などのイベントもしています。昔ながらの風呂屋の雰囲気の中で楽しんでもらえたら」と黒木さん。

現在、文化財の申請に向けて準備しているという歴史ある銭湯は、次世代に残したい、古き良き日本の原風景の一つといえそうです。

円形の浴槽の横には入浴剤が入った薬湯もあります。
神社のような唐破風屋根。右上には薪(まき)でたいているボイラー室の煙突が見えています。
男湯の洗い場。鏡広告は年内に新規広告主募集予定。詳細はInstagramまたはXで配信されます。
右が「お釜型ドライヤー」。便利なものの、きれいに乾かすにはこつがいるそう。
第一敷島湯
尼崎市杭瀬本町1-25-5
TEL:06-6481-7120
営業時間:17:00~22:00
定休日:火曜
アクセス:阪神「杭瀬」駅から徒歩約5分
入浴料:大人(中学生以上)440円、中人(小学生)180円、小人(未就学児)80円
Instagram:https://www.instagram.com/shikishima_yu1010/
X:https://x.com/sikisimayu
マップ:https://maps.app.goo.gl/1zs7ZjE5AjScN6kz6

懐かしくて新しい“新感覚の空間(湊河湯)

神戸・湊川、東山商店街の程近くにある「湊河湯」。1949(昭和24)年に「湊川温泉」の名で創業しましたが、幾度目かの改装の際に今の屋号に変わったのだとか。阪神・淡路大震災も乗り越え長年地域の人々に愛されてきましたが、当時の主人が病に倒れ、2022(令和4)年にやむなく休業。銭湯の継業を手がける京都の「ゆとなみ社」が後を継ぎ、一部改装して昨年8月にリニューアルオープンしました。

店長を務めるのは松田悠さん。自らもかつてここに何度も足を運んだファンの一人です。改装に当たっては、元の設備を生かしつつ、若年層にも親しみを持ってもらえるスタイルにしたと言います。「番台になじみのない世代も多いので、フロントに作り替えてロビーにしました」。さらに、ロビーでは、ドリンクやアイスキャンデーを販売、バーカウンターを設け地元のクラフトビールを提供したり、オリジナルタオルやTシャツなどのグッズを並べたりしています。

もう一つリニューアルの際に取り入れたのが、「湊河ウェーブ」と名付けられた湊川の流れのような緩やかな曲線のデザイン。ロビーや脱衣所のテーブルの脚など随所に取り入れられています。「屋号の3文字全てに入っている『さんずい』をデザイン化しています」と松田さんは話します。

浴室は2フロアに分かれ、2階にはラムネの香り湯やパインアメの湯などユニークな入浴剤を日替わりで楽しめる露天風呂、スチームサウナ、水風呂が、1階には電気風呂、ジェットバスなどと洗い場があります。壁には「露天風呂」などの案内文字が手書きされ、アクセントになっています。洗い場の鏡広告もレトロ感たっぷり。「時々音楽やお笑いのライブなどイベントをしているので、若いお客さんが増えてきました。これからも面白い試みをいろいろやりながら、銭湯の魅力を伝えていけたら」と松田さん。

若い感性で巧みに“今”をプラスし、昭和の遺産に新たな息吹を注ぎ込みます。

8月には美術家、横尾忠則さんとのタイアップイベントを実施し、浴室に作品を展示。
下駄箱など元からあった物を残しつつ改装されたロビー。水色の手すりも「湊河ウェーブ」。
「リニューアルの際、新たにイラストレーターさんに描き下ろしてもらったのれんです」と松田さん。
夜はネオンサインが点灯。路地でひと際目立ちます。
湊河湯
神戸市兵庫区東山町2-3-5
TEL:070-3352-2680
営業時間:13:00~23:00
定休日:火曜
アクセス:地下鉄「湊川公園」駅または神戸電鉄「湊川」駅から徒歩約10分
入浴料:中学生以上450円、小学生160円、未就学児60円
Instagram:https://www.instagram.com/minatogawayu/
マップ:https://maps.app.goo.gl/i6VsEJKWtoRRbjzM9
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