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春の訪れを告げるイカナゴのくぎ煮

毎年3月になると播磨灘や大阪湾ではイカナゴ漁が行われ、くぎ煮にして味わうのが瀬戸内の春の風物詩となっています。今年も3月4日の解禁を受け、漁協や商店街などに並び始めた多彩なくぎ煮を紹介します。

水揚げ間もないピチピチを加工

明石海峡大橋の東に位置する垂水漁港では、毎春20隻以上の船が出漁し、「シンコ」の水揚げで活気にあふれます。かつては2月末から1カ月ほど漁が許され、多い年には2万tに迫る漁獲量でしたが、海中の窒素やリンといった栄養塩が減ったことでイカナゴの餌となるプランクトンが少なくなり量は下降。2017(平成29)年には1,000t程度まで落ち込みました。「わずか3日しか漁ができない年もあり、厳しい状況が続いています。県を挙げて海に栄養塩を増やす取り組みが進められていますが、すぐに結果は出ません」と神戸市漁業協同組合管理部の布施達也さんは話します。

漁協では、水揚げしたイカナゴをすぐさま敷地内の加工場へ。丸大豆しょうゆをはじめ数種の調味料にショウガを加えて炊き、直売所で販売しています。

味のバリエーションは、シンプルなプレーン、カリッとした食感が楽しめる「くるみ入り」、タカの爪でパンチを効かせた「ピリ辛」の3種。150gパックのほか、量り売りも行っています。

わずかな期間で取れた貴重な魚は、もはや高級魚に匹敵する価格です。「kg単位で買って炊くのはちょっと勇気がいる」という人は、少量から気軽に買える量り売りで、食卓に春の味覚を取り入れてみませんか。

パック入り商品。県の「ひょうご推奨ブランド」に認証されています。
直売所で100gから量り売りされているイカナゴのくぎ煮。
神戸市漁業協同組合直売所
神戸市垂水区平磯3-1-10
TEL:078-708-1616
営業時間:9:00~16:00
定休日:なし
アクセス:JR「垂水」駅または山陽「山陽垂水」駅から徒歩約5分

老舗総菜店の親しみやすい‟家庭の味

須磨区の板宿センター街では、老舗総菜店が手がけるくぎ煮が人気を集めています。

長田で創業し、昭和30年代の初めに先代が板宿で店を始めた「馬場惣菜店」。神戸では40年ほど前から一般家庭にもイカナゴのくぎ煮が普及し、同店でも先代店主が作る〝家庭の味″を販売するようになったといいます。

阪神・淡路大震災後は、被災時にお世話になった人にお礼の品として送るのが恒例となり、同店も地方発送の注文が一気に増えました。3代目の馬場宣文さんは、「まだイカナゴが手に入りやすく仕入れ値も安い頃だったので、毎日100kgずつ計10日ほど、〝へっついさん″と呼ばれる大きな鉄製の釜で炊いていました」と振り返ります。

5年ほど前から価格が高騰し、日によっては仕入れを見送ることもあるそう。敷地の一角を間貸ししている鮮魚店に頼んで手が出せる価格なら仕入れ、その日の午後に約2時間かけて炊いていきます。「レシピは当初のまま。皆さんが家で作っているものとほとんど変わりませんが、ショウガと酒を多めに入れ、臭みを抑えるとともに魚のうま味を引き出しています」

漁の短期化により、くぎ煮作りも数日に限られるようになりましたが、店先を通るとしょうゆと砂糖の独特の香りがふわりと流れてきて、行き交う人々に春の訪れを知らせてくれます。

この日は淡路島の育波漁港で水揚げされたイカナゴを使用。例年より解禁が遅かったため、魚はやや大きめ。
鍋に約5kgずつイカナゴを投入し、強火でたれが少なくなるまでじっくり煮詰めます。
馬場惣菜店
神戸市須磨区飛松町2-5-13
TEL:078-732-2213
営業時間:10:00~19:00
定休日:木曜、日曜
アクセス:山陽・地下鉄「板宿」駅から徒歩約5分

シンコより入手が難しいフルセのくぎ煮

イカナゴのくぎ煮には、稚魚の「シンコ」を使うのが定番ですが、生後1年以上たった成魚「フルセ」を炊いた商品もあります。

垂水にある佃煮と乾物の専門店「江戸屋 本丸」では、30年ほど前から、2代目店主の戸田道雄さんがシンコとフルセ両方のくぎ煮を手作りするようになりました。

フルセは漁期に制限はないものの、3月下旬から4月初旬にかけて水揚げされることが多いそうです。「シンコ同様に漁獲量が減っているので、近くの魚屋にない時は明石や岡山から仕入れています」と戸田さん。

シンコと違って新鮮なうちに炊くと身が割れてしまうため、仕入れた翌日に調理。まずは鍋にきれいに並べ、ざらめ糖としょうゆ、ショウガを加えて丸一日じっくり炊き続けます。「火が強すぎると形が崩れるので、加減が難しいです」。その後いったん火を止め、翌朝から再び一日炊くことで、味がしっかり染みわたり、色つやも長持ちするそうです。

シンコよりも大きくてうま味があるフルセは、ご飯やお酒のお供のほか、漁師の家では巻きずしの具材にも使っていたといいます。

ここ数年は予約分だけで品切れになることが多いものの、量に余裕があれば店頭やオンラインショップでも販売されるので、運よく見つけたら、ぜひお試しを。

真っすぐに形を整え、鍋にきれいに並べて火にかけます。
あめ色に炊き上がったつややかなフルセのくぎ煮。
江戸屋 本丸
神戸市垂水区日向1-4-1-125-2 レバンテ垂水1番館1F
TEL:078-705-5101
営業時間:10:00~19:00
定休日:日曜
アクセス:JR「垂水」駅または山陽「山陽垂水」駅から徒歩すぐ
HP:https://honmaru.ocnk.net/
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