独自の和装文化を神戸から発信
後に2代目社長となる糸川禎彦さんが神戸・三宮のさんプラザに「イトカワ」をオープンしたのは1970(昭和45)年のことでした。持ち前の発想力と行動力で神戸はもとより日本の和装業界をけん引。中でも、アジアのテキスタイル文化にインスパイアされたオリジナル商品は、唯一無二の輝きを放っています。
“素敵”なものを追い求めて
2005(平成17)年、三宮から神戸元町商店街に移転。明るい展示スペースでひときわ光彩を放つのは黄金色の訪問着です。身頃には、インドの王族などを描いた細密画が施されています。「インドのアッサム地方だけに生息する蚕から取れる天然繭(まゆ)を使用した、『ゴールデンムガシルク』と呼ばれる生地を使っています」と話すのは4代目社長で禎彦さんの娘である糸川英里さん。生地は染めずとも輝くような光沢があり、柔らかな質感は着る人を魅了します。「1990年代の初めに父が、インドの奥地に黄金色の素晴らしい織物があることを知り、日本に持ち込みました」
現地に職人を送って織りの技術を習得させ、ゴールデンムガシルクを使ったオリジナル商品を自社工房で開発。黄金の生地を彩るのは、インドの高名な細密画家が描いた緻密な模様やアジア各国の伝統柄、日本の草花や文様など多彩で、組み合わせの妙が光ります。異国情緒漂う中にしっとりとした趣もあり、独創性にあふれています。
オリジナル商品には、正絹や紬など日本の織物を使った商品も。また、人間国宝の作品や有名工房の作品も多数扱っています。「父は国内外を問わず、“素敵”なものを追い求めた人でした。逆に言うと、“素敵”と思うものしか扱わなかった。その姿勢は今も受け継いでいます」と糸川さんは話します。
日本の伝統美を見直してほしい
店の移転と時を同じくして、屋号に「きもの百科」を加え、着付け教室をスタート。当時は着付け教室と称して着物を売りつける悪質な業者が多く、負のイメージを払拭したかったとのこと。着物の畳み方から二重太鼓が一人で結べるまでを、個々のペースに合わせて講師が指導しています。
2021(令和3)年には長唄教室と茶道教室を開始。翌年には組みひも教室も続きました。「長唄を習っていた社員から『コロナ禍で教室が開けなくなり、いろいろな先生が困っている』と聞き、それなら『うちでやっていただきましょう』と始めました」。茶道教室は、武者小路千家の十五代隨縁斎宗屋が2007(平成19)年に生み出した茶机「天遊卓(てんゆうじょく)」での稽古を専門に行う日本で初めての教室です。「いずれも私自身が大好きな日本の伝統文化。各教室が日本の美しいもの、“素敵”なものを見直すきっかけになればうれしいです」
選りすぐりの逸品を通して、独自の和装文化を発信してきた同店。「神戸という目の肥えた人々が集まる土地が育ててくれました」と糸川さん。「ここにある意味を常に意識しながら、これからも“素敵”と思えるものだけをお届けしたい」とほほ笑みます。
神戸市中央区元町通1-6-12
TEL:078-332-0301
営業時間:10:00~19:00
定休日:水曜
アクセス:地下鉄「旧居留地・大丸前」駅から徒歩すぐ
HP:https://itokawa.com/
Instagram:https://www.instagram.com/kimono.itokawa/
マップ:https://maps.app.goo.gl/UfxZTkX6Rmt1n7ua6