老舗帽子メーカーが手がける環境に優しい帽子
神戸市中央区に本社を構える日本真田帽子株式会社は、創業92年の老舗帽子メーカー。長い歴史の中で培われてきた伝統の技術に新しい発想を組み合わせ、染色ではなく印刷による独自の紙素材を開発、環境に優しい帽子作りに取り組んでいます。
自然に配慮した素材で水を使わず着色
もともとは岡山県で麦わらをテープ状に編んだ「真田」、英名で「ブレード」と呼ばれる製品の製造で起業した同社。それを海外に輸出するとともに、間もなくブレードを用いた帽子作りをスタート。戦後は高度経済成長を経て需要が高まり、大手アパレルメーカーなどのOEMも引き受けるように。平成に入ると中国やベトナムなど海外にも工場を構え、帽子専門メーカーとしてこれまでに数々の商品を生み出してきました。
SDGsに関する取り組みを始めたのは2016(平成28)年のこと。揚子江に近い工場で、中国でのサミット開催に向けた環境改善のために操業制限がかかり、4代目社長の阿部浩介さんが「染色に大量の水を使い川に排出するスタイルは、将来的にできなくなるのでは」と懸念を抱いたのがきっかけです。
「水に頼らず糸に色付けする方法はないか」と思いを巡らせていたところ、王子ファイバー株式会社の和紙の糸に出合います。それを基に同社の協力を経て1年かけて新素材を開発しました。成長が早くて環境への負荷が少なく吸水性や強度に優れたマニラ麻や針葉樹の間伐材を原料に和紙に加工し、印刷により着色。それを細く切ってより、糸にしたものをブレードに編み上げます。新しいブレードは「ナノトリコローレ」と名付け、特許を取得。自社工場で職人が年季の入ったミシンで帽子の形に縫い、金型を当ててプレス整形し、帽子に仕上げています。
SDGsを考えるきっかけとなる帽子に
2018(平成30)年、ファッションの国イタリアのローマ街道から命名したブランド「アウレリア」の一部の商品にナノトリコローレを導入。以降、毎夏少しずつモデルチェンジしながら自社のオンラインショップやテレビの通販、帽子専門店などで販売しています。
厳選した素材と印刷コストにより価格は1万円を超え、近年市場の主流であるファストファッションの商品に比べると高価ではあるものの、大半の工程を社内で行えるため価格は抑えられているといいます。
2021(令和3)年には、愛知県の織物メーカーと共同でナノトリコローレの布地「ナノトリコローレテスト」を開発、新たな商品展開も検討中です。「私自身、最初はSDGsに対してそれほど思い入れはありませんでしたが、開発を進めるうちにおのずと環境問題などへの関心が高まりました。この帽子を通して一人でも多くの方に、地球の未来について考えていただけたら」と阿部さん。新しい発想で生まれた素材と長年培われた技術を融合させた帽子に期待と願いを込め、この夏も未来を見据えた優しい帽子を世に送り出します。