コーヒーの豆袋を華麗にアップサイクル
本来なら捨てられるはずの物を新しい製品にグレードアップし、付加価値を持たせる‟アップサイクル”は今、ファッション界をはじめさまざまな業界で注目を集めています。カルティエでショーケースや店内を装飾するデコレーターとして長年活躍した中島彌生さんが扱うのは、世界各国から届くコーヒー豆の輸入用の袋。宝塚の老舗コーヒー店「百合珈琲」のオーナー・久保田千佳さんらとブランド「ユリ」を立ち上げ、シニアの力なども生かしながら、役目を終えた豆袋をハイセンスなバッグや小物へと生まれ変わらせています。
独特の柄に魅了されブランドを設立
カルティエ ジャパンを定年退職後、フリーランスのデコレーターとして芦屋を拠点に活動している中島彌生さんが「ユリ」を立ち上げたのは約3年前。コロナ禍で仕事が次々と立ち消えになる中、唯一残ったクライアント「百合珈琲」を訪れた際、店の片隅に積み上げられた豆袋に目が留まったことが始まりでした。
「プリントされた柄や色彩に国の個性がよく出ていて、デザイン性があるものばかり。どれも、めちゃくちゃきれいなんです」と、麻や綿で作られた豆袋にすっかり魅了された中島さん。「聞けば、欲しいお客さまには差し上げるけれど、残ったものは廃棄するとのこと。『捨てるなんてもったいない!』と1枚だけ頂いて、かばんにしてみました」。見よう見まねで手作りしたかばんが周囲に好評だったことから、2020年5月に百合珈琲の久保田さんらとチームを結成し、製品化に向けて動き出します。デザイン面は中島さんが担い、製作は縫製の仕事をリタイヤした知人に依頼。百合珈琲での出合いがきっかけで生まれたことからブランド名を「ユリ」とし、同年9月にインターネットでの販売をスタートさせました。
強く丈夫な豆袋を丸ごと活用
こだわっているのは、一部分だけを切り取って別の素材と組み合わせたりするのではなく、豆袋を丸ごと生かすこと。「基本的に袋部分をそのまま使うので、バッグの横幅は元々のサイズです。縦半分は中に織り込み、裏地として使うことで縫製の手間が省け、強度も増します」と、無駄なく再生させる商品作りを第一に考えているといいます。
豆袋はコーヒー豆の卸会社からも仕入れることで柄のバリエーションが広がり、ブラジルの赤いコーヒーの実をはじめ、タンザニアのシマウマ、エチオピアのトランプなど10種ほどに。一方、かばんに向かない素材はコロナ禍で稼働率が下がった縫製工場に依頼してポーチやクッションカバーに。他にも、ドアマットやエプロン、のれん、ぬいぐるみなど、ニーズに応じて扱うアイテムも増えつつあります。現在はネットを通じての受注販売を基本に、百合珈琲などとコラボしたイベントで販売するほか、阪急「芦屋川」駅近くの「レンタルキッチン・ステージ」のスペースを借りてサンプルの展示と一部販売をしています。