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8月の2日間公開される薬仙寺の仏様

神戸市兵庫区・兵庫運河の程近くに立つ時宗の薬仙寺は、奈良時代の746(天平18)年に行基上人が創建し、法然上人や後醍醐天皇も立ち寄った記録が残る由緒ある古刹。毎年8月8日、9日だけ、本尊の木造薬師如来坐像をはじめ3体の仏像が公開されます。

国重要文化財を含む貴重な仏像

境内奥に立つ本堂には、極楽浄土を思わせるきらびやかな装飾に囲まれ、3体の仏像が祭られています。普段は扉が固く閉ざされていますが、毎年、観音様の縁日「四万六千日」に当たる8月8日、9日の2日間だけ、その姿を見ることができます。

3体のうち最も古い仏像は、平安時代に作られ、国の重要文化財にも指定されている本尊の木造薬師如来坐像。1本のヒノキでこしらえた「一木造り」で、高さ88.7㎝。どっしりとして包容力を感じさせるふくよかな姿が印象的です。もともとは阿弥陀如来でしたが、何らかの理由で薬師如来に作り替えられたといわれています。

次に古いのが、鎌倉時代の木造十一面観世音菩薩立像。同じく材質はヒノキですが、複数の木材を継ぎ合わせた「寄木造り」が採用されています。高さ86.3㎝、細身ですらりとし、凛としたたたずまいは気品を感じさせます。「奈良県にある長谷寺の観音様にそっくりで、長谷寺の像を作るための試作だったと伝わります」と住職の後藤尚玄さんは話します。

木造薬師如来坐像。右手は釈迦(しゃか)が最初の説法をした時の形「説法印」、左手には万病に効く薬が入った薬壺を乗せています。
木造十一面観世音菩薩立像。宝冠をかぶって天衣をまとい、胸元や手首などには装飾品を着けています。右手に悪を退散させるという錫杖(しゃくじょう)、左手には水瓶に入った蓮華(れんげ)が。

新たに迎えた阿弥陀如来立像

残る一体の阿弥陀如来立像は、江戸時代の作品。材質は不明ですが、技法は寄木造りです。この仏像のふるさとは、広島県尾道市。もともとの本尊が神戸大空襲で本堂と共に焼失し、戦後、新たに迎え入れたものだそうです。全身約80㎝、顔のパーツは小ぶりで、見る者を暖かく包み込むような優しい面持ちをしています。29年前の阪神・淡路大震災ではこの仏像だけばらばらになったものの、何とか元に近い状態に修復されたそうです。

「『四万六千日』は一度で4万6,000回分参ったことになるという貴重な日。普段お参りの習慣がない方も、ぜひこの時だけでも仏様の前で心静かな時間を持っていただけたら」と後藤さん。

参拝の後は、寺のすぐ北を流れる兵庫運河へ。明治時代、海難事故が多発する和田岬を避けた水路として地元豪商が計画し、1899(明治32)年に5つの運河が完成しました。昭和には工場排水などで水質が悪化しますが、地域団体の地道な清掃活動により、現在は美しい水辺の風景が復活。ウナギやアサリなど多くの生き物が確認されています。

新川運河沿いには遊歩道が整備されており、輝く水面を眺めながら散歩をしたり、ベンチでお弁当を広げたり。戦争や震災を乗り越えてきたたくましい仏様たちのお顔を思い返しながら、心穏やかなひとときを過ごせそうです。

尾道から迎えた阿弥陀如来立像。右手は「説法印」、左手は人々の願いを受け止め、かなえることを意味した「与願印」の形になっています。
「境内には後醍醐天皇に献上した霊水などの史跡もあるので、気軽にお立ち寄りいただければ」と話す後藤さん。
夜間はライトアップもされる新川運河の遊歩道。
薬仙寺
兵庫区今出在家町4-1-14
TEL:078-671-1696
アクセス:地下鉄「中央市場前」駅から徒歩約15分
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