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名店を残したい 承継喫茶店

昭和から続く喫茶店には、現代のおしゃれなカフェにはない魅力があります。惜しまれつつ閉店した後、さまざまな形で受け継がれ新たな命が吹き込まれた3軒を紹介します。

少しだけ‟自分色″を加えて

神戸・元町の路地裏にたたずむ「元町 喫茶ポエム」。10年前、高齢の店主夫婦が45年の歴史にピリオドを打ち貸店舗の貼り紙をしていたところ、喫茶店をこよなく愛し、いつか自分で店を開きたいと考えていた山﨑俊一さんが偶然通りがかって一目ぼれ。すぐに物件を押さえ、仕事を辞めて開店準備に。家具や看板、カトラリーなど使える物は全て譲り受けて店の雰囲気をできる限り残し、趣味で集めた漫画本で〝自分色″をプラス。同じ屋号のまま、営業を再開しました。

子どもの頃、時々友人の祖父に近所の喫茶店に連れて行ってもらったり、家ではナポリタンをはじめ喫茶店にあるようなメニューをよく食べていたりしたという山﨑さん。大人になると喫茶店巡りを始め、いつの間にか出勤前や休日の昼下がりの時間を過ごすのがルーティンになっていたといいます。「店主や他のお客さんととりとめのない話をできるのが喫茶店の魅力ですね」

「ポエム」を継承後も、神戸の古い店が次々と店じまいに。貴重な昭和の喫茶文化を次の世代に残したいと、5年前には月見山の喫茶店をポエム2号店として、さらに3年前には行きつけだった海岸通の「喫茶ラン」を屋号ごと承継。その後も、閉店になった店の家具を譲り受けるなど、消えゆく〝昭和の遺産″の保存に力を注ぎます。「現代の大量生産のものづくりにはない味わい深い品ばかり。いずれこれらを多くの人に見ていただける場を設けたいと考えています」

今も古くからの常連客たちの社交場となっている「ポエム」。何気ない会話で人と人が心を通わせる、昭和からの変わらぬ日常がそこにはあります。

鉄板で熱々をいただく「ナポリタンセット」(11:00~15:00は1,000円、15:00以降と土曜、日曜、祝休日は1,200円)。
本棚にはオーナーの趣味の漫画がずらりと並びます。
自家焙煎し、サイフォンで1杯ずつ丁寧に入れられるコーヒー。
元町 喫茶ポエム
神戸市中央区元町通3-11-15
TEL:078-958-5892
営業時間:10:00~20:00(L.O.19:30)
定休日:不定休
席数:カウンター7席、テーブル18席
アクセス:JR・阪神「元町」駅から徒歩約5分

秘伝の技も含めて受け継ぐ

きっかけは不動産店の店頭に貼り出されていた1枚のチラシでした。「喫茶店のオーナー募集。設備は全て譲り、コーヒーの入れ方も一から教えます」。当時、グラフィックデザイナーをなりわいとしていたものの病気で体調を崩し、今後の身の振り方を考えていた原田和俊さん。たまたま目にして「面白そうだな」と興味を持ち、その足で板宿商店街の近くにあるチラシの喫茶店へ。

1975(昭和50)年創業の歴史を感じさせる扉を開けると、ダークブラウンを基調とした重厚感漂う空間に、カウンター席とテーブル席、焙煎室が設けられた本格的な店構え。「1人では大変ですが、ちょうど20代の息子2人が仕事を探していたので、一緒にやろうと持ちかけました」

そこから80代のオーナーに弟子入りして焙煎やサイフォンによる抽出技術などを教わり、約1カ月後、「珈琲店 真」と屋号を変えてオープン。「前オーナーのコーヒーへの熱意は相当で、焙煎機は目盛りと目盛りの間レベルでの細かい指示があり、驚きました」

引き継いだ当初は昔からの常連客が多かったものの、やがてレトロな雰囲気がSNSで話題を呼び、最近では若い世代が中心になりつつあります。また、趣味で集めた古いフィルムカメラを展示していたところ、写真好きの客が増え、「真写真倶楽部」と題して不定期で桜や紅葉などの撮影会も催すようになりました。「これからはお客さんたちの趣味をつなぐ場所にしていけたら」と原田さん。

受け継いだこだわりのコーヒーに加え、新たな店の魅力を模索しています。

前オーナーから継いだ銅板で焼く「ホットケーキ」。ドリンクとセットで900円。
平日のモーニング終了後、ひと時の静けさが訪れる店内。
豆は炭になる手前まで焙煎。濃い味わいながら後味はすっきりしているのが特長。
豆はたっぷり使い、深いりで抽出。棚にはコレクションのフィルムカメラが並びます。
珈琲店 真
神戸市須磨区飛松町1-3-5
TEL:078-777-9373
営業時間:8:00~17:00(L.O.16:30)〔土曜、日曜、祝休日は~18:00(L.O.17:30)〕
定休日:木曜、第3水曜
席数:カウンター5席、テーブル27席
アクセス:山陽・地下鉄「板宿」駅から徒歩約5分

家具を譲り受け新たな地で

閉店になった店の家具を譲り受け、場所を変えて新店として生まれ変わらせたのが三宮の東、元美容室を改装した「DORSIA」です。オーナーの40代の男性は、かつて花隈にあった「セリナ」をひいきにしており、時折足を運んでは親以上に年の離れた店主夫妻との会話を楽しんでいたといいます。「天井や壁などのデザインがモダンな店で、芸術性の高い空間が気に入っていました」と懐かしみます。

2年前、建物の老朽化で46年の歴史に幕を下ろすことになり、夫妻から「家具や照明を譲ろうか」と持ちかけられます。「定職に就いていましたが、活用しないともったいないと思って」と自らはオーナーとなり、スタッフに現場を任せる形で開業を決意。レトロな空き物件を見つけて改装し、半年後の2021(令和3)年10月に店を立ち上げました。

ガラスの扉の向こうには、セリナと同じブルーのカーペットの上に、花隈の店から移された年季の入った椅子やテーブルなどが置かれています。メニューは1品だけセリナのレシピを承継。鮮やかなライトブルーが印象的な「セリナクリームソーダ」です。

午前中は地元の人や旅行客がモーニング目当てに訪れ、昼間は若者がおしゃべりに花を咲かせ、夕方からは一人で読書をしながら静かに過ごす客が増え…と、一日を通してさまざまな表情を見せる同店。セリナの店主夫妻も時折立ち寄るそうです。

古き良き昭和の歴史が刻まれた味のある家具類は、新たな地で世代を超えた幅広い層に愛され、思い出が上書きされていきます。

テーマカラーのブルーにちなんだ「セリナクリームソーダ」(680円)。
セリナから譲り受けた丸いフォルムが愛らしい椅子とテーブル。
昭和に流行したテーブルゲーム機。現在は動かずテーブルとして利用しています。
丸いアーチ窓が印象的。看板のデザインは、アーティストの平山昌尚(HIMAA)さんが手がけたもの。
ドーシア
神戸市中央区旭通3-1-29
TEL:非公開
営業時間:8:00~21:00
定休日:なし
席数:テーブル20席
アクセス:各線「三ノ宮」「三宮」「神戸三宮」駅から徒歩約10分
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